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産業技術総合研究所様インタビュー:磁気顕微鏡に活かされるオータマの磁気シールド技

地球の変動史、ならびに日本列島の変動史の精密解明を目指す産業技術総合研究所 地球変動史研究グループ。ここでは、地質図や地質情報の整備を目的として、地質年代の推定に必要な先端的手法の開発およびその適用に取り組んでいます。地質試料を用いた分析手法の一つである「古地磁気学」の解析において重要なツールである走査型SQUID磁気顕微鏡には、オータマの磁気シールドが導入されています。導入の経緯や効果について、磁気顕微鏡の開発に携わった小田啓邦様にお話を伺いました。



◆地磁気逆転の痕跡から、地球の歴史を解き明かす

― 研究内容について教えてください。


地球変動史研究グループでは、海や陸の地質、生物の化石といった、さまざまな情報を統合しながら、地球環境システムや日本列島の変動などを解き明かすことを目標にしています。

 産業技術総合研究所には多様な専門分野の研究者が在籍していて、それぞれが独自のテーマを持っています。そのなかでも、私たち地球変動史研究グループはとくに分野や手法を超えたつながりを大事にしていて、お互いの知見を持ち寄りながら共同で研究を進めています。地質学、堆積学、古海洋学、古気候学、年代学、古生物学、生痕化石、音波探査、地中レーダー、資源工学…と各々が得意としている分野は多岐に渡り、近年は「AI技術を用いた微化石の自動認識と群集解析」に取り組んでいる研究者もいます。

 私は古地磁気学と海洋底地球物理学を専門としており、主に「地球磁場」と「地磁気逆転」の基礎と応用に関する研究をしています。地磁気逆転というのは、その名の通り、地球の磁場の向きが入れ替わる自然現象のことです。地球磁場は地球の中心に置かれた大きな棒磁石のようなもので、今現在は棒磁石のS極が北極、N極が南極を向いており、地表で水平に置かれた磁気コンパスのN極は北を指します。磁気コンパスのN極が北を指して当たり前と思われるかもしれませんが、じつは地球の長い歴史のなかで、磁極が何度も逆転していることがわかっています。実際には、地球の外核で鉄を主成分とする高温流体が複雑な対流運動によって発電作用で電流を発生させ(地磁気ダイナモ)、その電流が地球磁場を発生させつつ地磁気逆転を起こしています。

「白亜紀」や「ジュラ紀」などの地質年代区分は、隕石衝突や巨大火山噴火など様々な地球現象により多くの生物が絶滅した層準を境界としていますが、そのほかにも各種化石が消滅した小さな絶滅が存在し、絶滅年代が既知となっている化石の産出状況を調べることで年代を推定できます。また、岩石や鉱物がウランやカリウムなどの放射性同位元素を含む場合は、残った放射性同位元素と放射壊変後の元素の量を測定すれば、放射性元素の半減期を用いて放射年代を知ることが可能です。


じつは地磁気逆転の記録も年代を特定するための重要な指標になります。なぜかというと、地層に含まれる磁性鉱物には、その時代の地磁気の向きが「記録」されているからです。そして、これまでの研究によって、それぞれの地磁気逆転の境界が信頼できる化石年代や放射年代と紐付けされています。つまり、地球磁場がいつ反転したのかがわかれば、地層の年代や成り立ちを推定することができるのです。このような過去の地磁気を用いた学問を「古地磁気学」、過去の地磁気を用いて年代推定する手法を「古地磁気層序学」と言います。


例えば、2020年1月に国際的に正式な地質時代として認められた「チバニアン」も、千葉県市原市田淵にある地層が登録の決め手になりました。およそ77万年前の地層が地球上で最後に起きた地磁気逆転(松山-ブルン地磁気逆転)を記録していると考えられており、この地磁気逆転の直前の御嶽山火山噴火による火山灰層を「チバニアン」開始の目印と定めました。このプロジェクトを茨城大学の岡田誠さんとともに牽引した国立極地研究所の菅沼悠介さんは、じつは以前うちの地球変動史研究グループに在籍していました。

― どのように地磁気の痕跡を調べるのでしょうか?
太平洋や大西洋の中央海嶺で生み出される玄武岩質の海洋底は、海嶺の両側に広がって冷却する過程で「現在と同じ向き」「逆向き」「同じ向き」…というふうに、縞模様のように規則的に岩石が磁気を記録することがわかっています。これは、調査船を用いて中央海嶺軸と直交する方向に高精度磁力計を曳航して観測されました。この縞模様こそが過去の地磁気逆転の記録なのです。


一方で、海底の堆積岩には、磁鉄鉱という酸化鉄の一種からなる微細な粒子が含まれています。磁鉄鉱は磁力を帯びているため、他の堆積物粒子と共に沈降しながら地球磁場の方向に揃っていき、海底に堆積して圧密される過程で地磁気の向きが固定・記録されるのです。後述する鉄マンガンクラストは、海水中のマンガン酸化物が百万年に数mmという極めてゆっくりとした速度で海底の岩石表面に沈着してできたもので、その中にも磁鉄鉱が含まれています。数cm角の薄片試料の中に地磁気逆転境界がいくつも含まれるため、中央海嶺を横切って船で観測するように、薄片試料のわずか上の地磁気逆転境界を磁気顕微鏡で測定することが可能となっています。

マンガンクラスト薄片試料の表面磁場を光学顕微鏡画像に重ね合わせた図。

マンガンクラスト薄片試料の表面磁場を光学顕微鏡画像に重ね合わせた図。(出典:産業技術総合研究所)
赤が画面上向き、青が画面下向きの磁場を示す。右は分析したマンガンクラストの断面。過去の地球磁場逆転の磁気的な記録を測定し、標準地球磁場逆転年代軸との比較によって形成年代を推定する。

◆繊細な地質試料 を測定する、国産初のSQUID磁気顕微鏡

― オータマの磁気シールドが組み込まれた「走査型SQUID(超伝導量子干渉素子)磁気顕微鏡」について教えてください。

走査型SQUID磁気顕微鏡は、金沢工業大学や複数のメーカーと共同で開発した、国産初となる地質試料用のSQUID顕微鏡です。液体ヘリウム温度での低温超伝導現象を用いた微小な検出コイルとSQUIDを磁気センサーとして使い、試料表面の微弱な磁場分布を顕微鏡レベルで描画できます。走査型SQUID磁気顕微鏡は、低温超伝導・高温超伝導を含めて半導体や超伝導材料の解析、機械部品の非破壊検査などに用いられる場合が多いのですが、私たちはこの技術を応用して、地質試料の地磁気記録や磁気構造を読み解いています。これにより、試料に刻まれた地磁気縞模様などを高い分解能と精度で可視化できるようになるのです。

この種の装置には大きく分けて二つのタイプがあります。一つは極低温の真空容器に試料を入れるタイプ、もう一つは常温・常圧で試料の測定が可能なタイプです。私たちが開発した走査型SQUID磁気顕微鏡は、後者のタイプ。なぜなら、地質試料、特に堆積岩は冷却すると物性が著しく劣化する場合が多く、正確な測定が難しくなるからです。とくに、鉄マンガンクラストという鉱物資源はデリケートで、液体窒素温度で割れてしまうこともありました。試料に含まれる磁鉄鉱は低温で磁気相転移して性質が変わってしまうことも理由としてあります。ただ、国内で常温タイプの装置を入手するのは難しかったので、海外事例を参考にしつつ共同開発することに。それが2014年頃の話です。

走査型SQUID磁気顕微鏡
走査型SQUID磁気顕微鏡

走査型SQUID磁気顕微鏡。
装置本体は直径約370mm、高さ約900mm。液体ヘリウムリザーバや伝導冷却機構、SQUID位置調整機構、サファイアウインドウなどで構成されています。観察用のサファイアウインドウと保護フィルムの厚みを含めると、センサーと試料の間隔は200μmほどになり、非常に細かな箇所までとらえられる仕様です。


測定時は前側の扉を閉めているため、側面の窓から試料の設置や高さの調整などを行う


測定時は前側の扉を閉めているため、側面の窓から試料の設置や高さの調整などを行う。

◆高精度の測定を可能にする、オータマの磁気シールド


― オータマの磁気シールドは、どのような役割があるのでしょうか?

SQUID顕微鏡は微弱な磁気の変化をとらえる装置のため、本体のまわりをオータマ製のPCパーマロイによる二重構造の磁気シールドケースで覆っています。このケースのシールド係数は約100。つまり、外部で100ナノテスラほどの磁場変動が起きていても、装置内部では1ナノテスラ程度まで抑えられる性能を持っています。簡単にいえば、装置内の磁場環境を外部の磁場変動から徹底的に守っているわけです。そこにリファレンスセンサーなどで補正を加えると、より測定の精度が上がります。

地質試料が記録する過去の地球磁場は非常に微弱なために、その測定はデリケートで、わずかな磁場の揺らぎでもデータが乱れてしまいます。磁気シールドが無ければ、実験室と同じ建物内のエレベーターが動くだけで、その影響が磁場測定値の明確な変動として確認できるほどです。また、太陽から地球に届く太陽風が磁気圏・電離圏に影響を与えることで昼と夜で地球磁場が変動しますが、この変動を大幅に緩和することが可能となります。だから、測定の精度を保つためには、高性能な磁気シールドが欠かせません。オータマさんのシールド技術は、そうした最適な測定環境を実現するための重要な存在なのです。

手前は走査型SQUID磁気顕微鏡


手前は走査型SQUID磁気顕微鏡。

― オータマの磁気シールドを導入した経緯を教えてください。

共同開発していたメーカーの方から「磁気シールドならオータマさんがいい」と薦められたことがきっかけです。以前は国内にも磁気シールドを取り扱うメーカーがいくつかありましたが、現在は選択肢が限られています。そのなかでオータマさんは独自の加工技術と高い精度で評価され、幅広い分野で導入されている。そうした実績は大きな安心材料になりました。

磁気シールドの性能にも非常に満足しています。SQUID顕微鏡の開発直後、初めての測定がうまくいったときは感動しました。その後のノイズ源の特定やノイズ低減においても磁気シールドは大変役に立っています。また、顕微鏡を移設する際にはオータマの技術者が現場に来て、磁場環境の再調整まで丁寧に対応してくれました。

― 最後に、今後の展望を教えてください。

時代の変化に伴い、走査型SQUID磁気顕微鏡にも新たな課題が生まれています。最大の問題は、測定に必要な液体ヘリウムの価格がここ数年で急激に高騰していることです。研究費には限りがあるため、同じ性能を維持しながらコストを抑えられる技術を探る必要があります。

近年注目しているのが、TMR(トンネル磁気抵抗)センサーを用いた顕微鏡です。TMR方式であれば液体ヘリウムが不要になり、コストと作業の負担を大幅に軽減できます。現在は東北大学と共同研究を進めており、2024年には玄武岩の測定に成功しました。まだノイズ低減など改善点は残されていますが、確かな手ごたえを感じています。

TMR方式を本格的に導入する場合は、オータマさんの磁気シールドも必要になるでしょう。次はより小型で扱いやすい仕様を考えています。液体ヘリウムの供給問題が解決すれば、従来型のSQUID顕微鏡とTMR顕微鏡を、それぞれの感度や分解能、特長を活かして並行稼働させる可能性があります。相補的な測定によって地質試料の磁性に関する立体的な知見が得られ、新たな研究の展開やチャンスにつながることが期待されます。夢がふくらみますね。



今後の研究への熱意を語る小田様
今後の研究への熱意を語る小田様。

― ありがとうございました。



国立研究開発法人産業技術総合研究所

国立研究開発法人 産業技術総合研究所は、2001年に設立した日本最大級の公的な研究機関。全国12か所に研究拠点を持ち、多様な分野と幅広いフェーズの研究を実施する。また、世界水準の研究のみならず、社会課題の掘り起こしや施策の提言、知的基盤の整備などにも取り組んでいる。
https://www.aist.go.jp/(外部サイト)

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